〈レイフェル〉
アルドベリク、このあたりにあなたの捨てたものがあるかもしれないね。
〈ウィズ〉
少し気になっていたんだけど、アルドベリクはなぜそんなことをしたにゃ。
〈レイフェル〉
そんなこと、俺が知るかよ。バカの考えることが分かるわけ無いだろ。
ぞんざいにそう答えたレイフェルの襟首を、アルドベリクが掴み上げた。
〈レイフェル〉
イタタ。乱暴は反対ですよ!
〈アルドベリク〉
まったく。都合のいい性格だな。
何かが聞こえた。
〈???〉
ちょ、ちょっとお、まーた掃除当番さぼって、アンタいったい何様のつもり?
〈???〉
うるせえな。お前こそ、俺の、何様なんだよ。
〈???〉
な、何様って……馬鹿じゃないの!?
〈ウィズ〉
何の声にゃ?
その声は、アルドベリクとルシエラの声に少し似ていた。
〈???〉
アンタかい。俺に仕事を頼みたいってのは、ずいぶん高貴な身分なようで。
〈???〉
無暗に近づくな。貴様に頼みたいのは、仕事だけだ。それが終われば、どこへでも失せろ。
〈???〉
まあ、いいさ。俺だって金以外には興味はない。
また、別の声が聞こえた。古い記憶のようにその声は君の耳に届いた。
〈レイフェル〉
んー。これは多分……。
〈???〉
何か、言い訳はしないのですか? 我が父の敵として、このまま斬られるつもりですか。
〈???〉
ないよ。
〈???〉
なら、私の許嫁だった男としては、なにか……。
〈???〉
どうか、お幸せに……。
〈レイフェル〉
多分これは、これまでアルドベリクとルシエラが繰り返してきた〈可能性〉の声だろうね。
〈レイフェル〉
おめえらは、こんなことをずっと繰り返してきたんだよ。そのたびに、悲惨な末路にたどり着く。
〈レイフェル〉
とっても哀れな存在だよ。失礼な言い方だけど。
突然、身の毛もよだつような声が、君の背筋を刺した。
〈???〉
うぁぁぁぁぁ……! ああ……ああああああ!
その声を聞いて、誰もが顔をしかめた。
〈レイフェル〉
もしかすると、最初の〈可能性〉の声かも。きっと〈とても良くないこと〉があったんだろう。
〈レイフェル〉
よくいるだろ。一番最初に貧乏くじをひく奴がさ。
〈レイフェル〉
だから、おめえらは自分たちの運命を閉じた。
〈レイフェル〉
そして永遠に終わらない関係を得たんだ。最悪の結果から永遠に逃れ続ける関係だ。
〈レイフェル〉
それを幸せだと思う人もいるだろうね。
〈レイフェル〉
本当に、それを終わらせてしまって、後悔しないかい?
沈黙の後、アルドベリクは口を開いた。
〈アルドベリク〉
もし目の前で苦しんでいるあいつの為に、何もしようとしないのが、以前の俺だったのなら。
〈アルドベリク〉
俺はそいつを殴りに行く。……それだけだ。
永遠に終わらないもの、それはまるでまがい物だ、と君は思った。
終りがあるから、終わらせないでいようと思える。と君はアルドベリクの言葉に付け加えた。
〈ウィズ〉
そうにゃ!
〈レイフェル〉
へっ! かっこつけやがって。
〈アルドベリク〉
俺はそこまでお人好しではない……。
〈アルドベリク〉
こいつは?
その化け物は激しい魔力と、憎悪の感情を撒き散らしていた。
〈レイフェル〉
あらゆる〈可能性〉の中で、最強で、最悪の、あなたです。
〈レイフェル〉
最低の選択を、全部やってみたら出来た奴だな。
〈レイフェル〉
普通に考えれば、あなたが勝てるわけないんだよ。どうする?
〈ウィズ〉
それは、どこかの異界から、お人好しの魔法使いがやってこなかった場合じゃないかにゃ?
〈レイフェル〉
ケッ。ずりぃの。ま、今回はいいけどさ。
〈アルドベリク〉
いいのか?
と、君に向かってアルドベリクは言った。君はただ……。
もちろん、と答えた。
〈アルドベリク〉
お前は、俺以上のお人好しだな。
そう言って、アルドベリクは少し笑った後、鋭い視線を目の前の化け物に向けた。
〈アルドベリク〉
遠慮はいらないだろう。お前は、俺なんだからな。
〈ウィズ〉
やったにゃ!
その化け物を倒すと、〈回廊〉は世界を閉ざすように、暗闇に呑まれた。
〈レイフェル〉
いやー、めでてー。めでてーな。でもよ。
〈レイフェル〉
勘違いしないでね。これはただの始まりだよ。永遠に終わらない関係の方が良かった。
〈レイフェル〉
そう思う時もきっとあるはずだけど……。
〈アルドベリク〉
ああ、そんなものには、もう頼らない。
〈レイフェル〉
当たり前だ! さて、魔法使い! お前たちがここにいる〈可能性〉ももう終わりだ。
〈レイフェル〉
とっとと失せやがれ、だよ。
アルドベリクが神界の神殿に戻った時、
青ざめた顔だったはずのルシエラが何事も無かったように、神殿の中を飛び回っていた。
その光景は、何かが変わったことを、彼に教えてくれた。
〈ルシエラ〉
あ、アルさん! もー、一体どこに行っていたんですか?
〈ルシエラ〉
目が覚めた時、いなかったから置いていかれたのかと、思っちゃいましたよ。
〈ルシエラ〉
これからは勝手に出て行くのは禁止ですよ。あと、私を置いていくのも、もちろん禁止です。
〈アルドベリク〉
ああ。
〈ルシエラ〉
あれ? なんか素直ですね、今日は。
〈アルドベリク〉
ああ。
〈ルシエラ〉
ふふふ。ならもっと近くに来てください。
〈アルドベリク〉
ああ、わかった。
〈ルシエラ〉
もっとです。……もっと近くです……。そうです。それでいいですよ。
〈ルシエラ〉
……ところで、今まで、一体どこで何をしていたんですか?
アルドベリクは少し微笑んでから、答えた。
〈アルドベリク〉
……内緒だ。
〈ルシエラ〉
ああ、ずるいー! それは私の得意技ですよ。返して。返してくださーい!
〈ウィズ〉
どうしたにゃ?
君は、自分のローブに空いた大きな穴から手を出してみた。
〈ウィズ〉
もうそれは買い換えなきゃいけないにゃ。やれやれ、出費が増えるにゃ。
君がローブを払うと、一枚の羽が落ちた。
〈ウィズ〉
きっとアルドベリクの羽にゃ。せっかくだから、何かの記念にするにゃ。
君は、栞にでもしようか、と考えながら、窓辺に歩いていく。
窓辺に、もう一枚。今度は真っ白な羽が落ちていることに気づいた。
君はその羽を手に取ると、二枚を揃えて、読みかけの魔道書に挟んだ。
