幽閉された白い羽

幽閉された白い羽

魔界の王のひとり、アルドベリクは魔界の底にある永劫牢に向かっていた。

〈アルドベリク〉
イザークの奴め……。

彼が忌々しげにその名を口にするのも無理はなかった。

彼がいまこんなところにいる理由も、これからやらなければいけない厄介事にも、
その名が関わっているのだ。

〈アルドベリク〉
つまらん仕事を押しつけおって……。

それもあったが、なによりもイザークが最後に言った一言が彼の癪にさわった。

お人好しの貴公には適任だ、そうイザークは言ったのだ。

堕天した魔族風情が生粋の魔族たる自分に、お人好しとは、怒りを通り越して笑えてくる。

〈アルドベリク〉
だが、会議で決まったことには従わねばならん。

どんなに意に沿わぬことがあろうと、魔界の最高意思決定の場たる王侯会議にて決まったことを、

ないがしろにするわけにはいかない。

それがアルドベリクの考え方である。

もしイザークがその場にいたら、こう付け加えてただろう。

真面目な奴だ、と。

冷たい瘴気がたちこめた通廊を進んでいくと、ひとつの牢に行きついた。

幾重にも封印の魔法が重ねられた獄の奥には、それとは不釣り合いなか細い影があった。

〈アルドベリク〉
おい。顔を見せろ。

〈???〉
あ、こんにちは。

脱出不可能の魔界の永劫牢に閉じ込められた者の発言にしてはあまりにも陽気で、能天気な発言だ。

〈アルドベリク〉
……なんだそれは?

彼がそう言ってしまうのは当然だ。

〈???〉
挨拶ですけど……? よくなかったですか?

〈アルドベリク〉
永い間、魔界に囚われている天使と聞いたが、そうは見えないな。

〈???〉
囚われの身らしく、しくしくと泣いていた方が良かったですか?

〈???〉
そういうの、堅苦しくないですか? 私、自分のやりたいことは自分で決めますよ。

〈???〉
泣きたくなったら泣くし、笑いたかったら笑います。

闊達に喋り続ける彼女に対してアルドベリクは沈黙で返した。

ようやく彼女がひとしきりのことを言い終えたのを見計らい、

〈アルドベリク〉
名は?

と、簡潔に問うた。

〈ルシエラ〉
ルシエラ・フオルですよ。

〈アルドベリク〉
出ろ……。貴様に手伝ってもらうことがある。

そう言って、漆黒の光に輝く右手を永劫牢にかざした。重々しく錠が外れる音が通廊に響いた。

少女は一歩としてその場から動こうとはしなかった。

〈ルシエラ〉
あなたのお名前聞いていませんけど?

少女はやわらかく笑った。

〈ルシエラ〉
知らない人にはついて行かない方が良さそうですから。

〈アルドベリク〉
アルドベリクだ。

それを聞いて納得したように彼女は牢の敷居をまたいだ。

〈ルシエラ〉
はい。よろしくお願いします。

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