侵略者との戦いにも終わりが見えつつあった。
と、同時にそれは別れが近づいているという意味
でもある。
〈リュディ〉
この戦いが終わったら、
やっぱり元の世界に帰っちゃうの?
〈アルドベリク〉
まあ、そうだな。
〈リュディ〉
そうか……。
リュディは残念そうに俯いた。
〈リザ〉
リュディ、無理を言ったら駄目よ。
アルさんにはアルさんの事情があるんだから。
リザがリュディをたしなめる様子を見て、
アルドベリクはふたりをよく出来た子供たち
だと思う。
どちらかが挫けても、きっとどちらかが肩を貸す。
このふたりなら戦いで疲弊した世界でも、
上手くやっていけるだろう。
〈ルシエラ〉
その顔は、さては言い訳を考えていますね。
〈アルドベリク〉
言い訳? 何の言い訳だ?
〈ルシエラ〉
ふたりなら上手くやっていけるとかなんとか
胃って。自分に言い訳しているんです。
〈アルドベリク〉
それは言い訳とは言わん。ただの事実だ。
まあ、それでもいいでしょう。
と言わんばかりにルシエラは目を細める。
〈ルシエラ〉
別にどれだけ長居したっていいと思いますけどね。
帰らなきゃいけない理由なんて
特にないんですから。
〈アルドベリク〉
俺には国がある。
そういうわけにはいかん。
〈ルシエラ〉
あ。また言い訳です。
〈アルドベリク〉
これは、……違う。
〈リュディ〉
ルシエラ、アルさんをいじめないで。
僕は少し寂しく思っただけだよ。
〈リザ〉
そうよ。
リュディって案外情けないんだから。
〈リザ〉
本当に私たちは全然平気だから。
アルさん、ありがとう。
ルシエラは黙って首を横に振る。
〈ルシエラ〉
ふたりとも嘘つきは泥棒の始まりですよ。
〈ルシエラ〉
みんな、どうして自分に言い訳したり、
嘘をついたりするんですか?
〈ルシエラ〉
一緒にいたいなら、我慢なんかしないで、
一緒にいればいいじゃないですか。
その素直な言葉が
アルドベリクと子供たちに突き刺さる。
効果の具合を確かめ、ルシエラはさらに続ける。
〈ルシエラ〉
アルさん! アルさんは何者ですか?
〈アルドベリク〉
……? 魔王だな。
〈ルシエラ〉
それなら魔王らしいことをすればいいんですよ。
……さらっちゃえ。
意表を突く発言に、
その場にいた者は思わず顔を見合わせた。
しばらく続いた沈黙の中で、
内緒のやり取りが生まれる。
言葉は何もなかったが、
考えていることは同じだった。
一同はそれぞれのやり方で笑顔を見せ、
その秘密の約束が結ばれたことを示す。
〈アルドベリク〉
いいだろう。
魔王らしいことをやろうか。
〈リザ&リュディ〉
やったー。
〈ルシエラ〉
ではでは。
可愛い姉弟をさらっちゃいましょうかー。
ふっふっふー。
それを聞き、
リュディとリザはきょとんとして言った。
〈リザ〉
違うよ。私たち、許嫁よ。
〈ルシエラ〉
え! あらまあ……。
それには流石の魔王と天使も、
目を丸くして驚くしかなかった。
〈グレイス〉
もう! お母様の嘘つき。
“あら。母親に向かってなんてこというの、
グレイス。”
〈グレイス〉
だって、お母様とお父様が
天使と魔族に育てられたなんて
ちょっと荒唐無稽過ぎます。
“私が嘘をついているとでも?”
〈グレイス〉
ええ。そうです。
“では、グレイス。
これまで私が嘘ついたことがありますか?”
“雷が鳴ってもおヘソを取られないことを
教えてあげたのは誰ですか?”
〈グレイス〉
お母様です。
“しゃっくりが止まらなくなっても
死なないと教えてあげたのは?”
〈グレイス〉
……お母様です。
“誕生日の前夜に、あなたの枕元にプレゼントを
置いたのが、妖精さんではなく、
お父様だと教えたのは?”
〈グレイス〉
お母様……です。
“私が嘘をつかないということを、
思い出してくれたようね。”
〈グレイス〉
はい。
でもそれならお母様は魔族の方に
影響されてしまったんですね。
〈グレイス〉
そんな気がします。
“いいえ。むしろ天使に影響されました。”
〈グレイス〉
ええ!
“はっはっは、グレイス。
きょうのおやつはビーンケーキだぞ。”
〈グレイス〉
お父様、聞いてください!
お母様ったら、自分が天使に似ていると
言っているんですよ。
“似ているぞ。”
〈グレイス〉
ええ!
“激似。”
〈グレイス〉
ええ……。
私、お母様みたいな天使は嫌です。
“グレイス、世の中全てが自分の思い通りには
ならないのですよ。”
〈グレイス〉
でもでも、お母様とお父様はしばらく
その天使と魔族と一緒に暮らしたんですよね。
〈グレイス〉
私、その時の話が聞きたいです!
“そうね……その話は……。”
“内緒です。”
〈グレイス〉
ええ! どうして! ひどーい!
