双翼のロストエデン ハード

苦悩級 聖王の悩み

その日、ミカエラはいつも通り政務を執り行っていた。

〈ミカエラ〉
ふう……。

〈クリネア〉
どうしたのですか? ミカエラ様。ため息なんかついて……。

〈ミカエラ〉
え? 私、そんなことしていましたか?

〈クリネア〉
ええ。先ほどから何度も……。

〈ミカエラ〉
いけませんね。聖王ともあろう者が……。

〈クリネア〉
聖王と言えど、ため息くらいつきますよ。そんなに気になさらずともいいのでは?

ミカエラは、ゆっくりと首を振り、クリネアの言葉を優しく否定した。

〈ミカエラ〉
そういうわけにはいかないのですよ。聖王というものは……。

〈ミカエラ〉
私は、この大役を果たさねばならないのです。父の教えを守る為に……。

〈クリネア〉
ミカエラ様…………。

 

天界級 天と地の兄弟

ある時、ミカエラはクリネアに呼び出された。

〈ミカエラ〉
一体何の用ですか。クリネア。

〈クリネア〉
少しお待ちくださいね。ミカエラ様。

その場所は、かつて天界と魔界の兵たちが戦った戦場だった。

いまは静かでも、戦いの爪痕は変わらずに残っている。

それはイザークとミカエラが袂を分かってから、紡がれた戦いの歴史の証である。

〈イザーク〉
苦労しているようだな、姉さん。

〈ミカエラ〉
イザーク! クリネア、あなたの仕業ですか。

〈クリネア〉
はい。ミカエラ様に必要だと思いました。

〈ミカエラ〉
イザーク……。こんなところにいていいのですか? あなたはいま、魔界の者のはず。

〈イザーク〉
心配いらない。魔王だから、自分の好きなように振る舞えるのさ。

〈イザーク〉
だが、さすがに聖王と一緒にいるところを他の者に見られるのは、まずいかもな。

〈イザーク〉
姉さんの方がね。……姉さん、一度オヤジと会ってみればいい。

〈イザーク〉
聖王としての在り方に疑問があるなら……。直接会って聞いてみればいい。

〈ミカエラ〉
亡くなった者に、どうやって会うというのですか?

イザークの言葉の中に、クリネアはある答えを見つけ出した。

彼女は、この事実をすぐに伝えようと、慌てた様子で言葉を紡いだ。

〈クリネア〉
いいえ、ミカエラ様。出来ます! 会えますよ!

ミカエラは怪訝そうに、クリネアを見た。

〈クリネア〉
あらゆる〈可能性〉を持つ場所があるじゃないですか。

〈クリネア〉
あそこに行きましょう!

 

回廊級 ある可能性を求めて

〈レイフェル〉
いやあ、なんだか最近はお客さんが多いね。

〈レイフェル〉
ホント、案内する方の身になれっての!

〈回廊〉に到着すると、丁寧で、生意気な案内人がミカエラたちを出迎えた。

〈ミカエラ〉
そう言わず、案内をお願いします。

〈レイフェル〉
ええ、めんどーだなあ。

〈クリネア〉
どうか、お願いします。

〈レイフェル〉
……まあ、我慢するか。

〈クリネア〉
わあ、ありがとうございます!

 

継承級 父との再会

〈回廊〉をしばらく進むと、妙な声が聞こえた。

〈???〉
聖王イザークよ。弟だからと言って、私は手加減せんぞ!

〈???〉
姉さん、この闘いが愚かなものだと思わないのか。

〈???〉
黙れ。……いや、私がお前を黙らせてやる。

〈クリネア〉
ミカエラ様の声。でも少し、怖い。

〈レイフェル〉
たぶん、今のミカエラとイザークの立場が違う〈可能性〉だろうね。

〈ミカエラ〉
そうした、可能性も……あったのですね。

ミカエラは自分とイザークが、まだ何者でもなかった頃を思い出した。

聖王でも、魔王でもなかった自分たち。

そして、その場にいつもいた者、父イアデルの事を。

〈???〉
双方の力が同じであれば、秤が傾くことはない。

〈ミカエラ〉
この声は……!

〈???〉
次代聖王は……ミカエラとする。

〈レイフェル〉
聞き覚えがあるようだね。そろそろ近づいてきたのかもね。

〈???〉
イザークよ……。なぜ我がお前を選ばぬか、分かるか。

〈ミカエラ〉
お父様……。私にはまだ、分かりません。

 

ミカエラの目の前に、ぼんやりとした像が浮かび上がる。

〈イアデル〉
誰だ?

ミカエラにはその男が何者であるか、すぐにわかった。

自分が知っている姿とは違ったが、その声、その眼、その匂い。

ミカエラには、すぐにわかった。

〈ミカエラ〉
お父様。

〈イアデル〉
お前に、お父様と呼ばれる筋合いはない。だが、ここはなんでもありらしい。

〈イアデル〉
そういうこともあるのかもな。

〈ミカエラ〉
私は……正しい道を歩んでいるのでしょうか。

〈イアデル〉
道は……自分で作れ。そうすれば、正しいか、正しくないか、気にする必要もなくなる。

〈イアデル〉
まあ、つまり……強くなれってことだな。

そして、イアデルはすさまじい覇気をミカエラに向けた。

〈ミカエラ〉
……わかりました。参ります。

 

〈イアデル〉
……チィ。これじゃあもう戦えないか。

〈ミカエラ〉
……はあ……はあ。

激しい戦いは、ミカエラの勝利で終わった。

イアデルの〈可能性〉は消耗からか、実体を保てなくなりつつあった。

〈イアデル〉
やれば、できるじゃないか。さすが俺の娘だ。

〈イアデル〉
お前はもう充分強い。そろそろ自信を持て。道を切り開いてゆけ。

〈ミカエラ〉
お父様……。さようなら。

〈イアデル〉
顔が見られて、よかったよ。

その言葉を最後に、イアデルの〈可能性〉は歪な空間の中に消えていった。

〈クリネア〉
ミカエラ様……。勝ちましたね。それがあなたの力です。自信をお持ちください。

〈ミカエラ〉
ありがとう。でも、これは私の力ではありません。

〈ミカエラ〉
貴方とイザークが私の背中を押してくれました。

〈ミカエラ〉
私だけの、力ではありません。ですが、それが私という聖王の道なのかもしれませんね。

〈ミカエラ〉
クリネア、これからも私を助けてください。

〈クリネア〉
はい!

〈レイフェル〉
上手くいったようだね。

〈レイフェル〉
じゃあ、そろそろ帰ろうぜ!

〈ミカエラ〉
はい。……帰りましょう。

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