魔界の祭典

目を瞑り、瞼に映るこの光景は、
一体いつの自分なのか。
一体いつの彼女なのか。

幾重にも重なった記憶の層が遠慮なく、
規則もなく、押し寄せてくる。

〈アルドベリク〉
そこには、数えきれないほどこの花が咲いている
んだ。とてもきれいな場所だよ。

〈ルシエラ〉
ホント? そんなところがあるの? いつか行っ
てみたい……。

〈アルドベリク〉
ああ、身体が治ったら行こう。

〈ルシエラ〉
約束だよ……。

彼女はそれを見ないまま、いなくなった。
それだけを俺は覚えている。
そして……。

〈アルドベリク〉
ううううあああ……うああああ……!!

記憶の終わりはどれも似たようなものだった。

瞼を上げ、耳を澄ます。
広がる世界は賑やかで騒がしい。

廊下に見える原色多用のモニュメントや
色とりどりの炎を噴き上げる自動機械の数々。

魔族たちの快哉が、地響きのように伝わってくる。
歓喜と熱狂と罵詈雑言が入り混じった感情の塊が
そこにはある。

つまり、祝祭の成功だ。

自室のドアが開く音が聞こえる。
ノックもなく入ってくる権利は誰にもない。

だが、権利はなくても入ってくる者はひとりいる。
何度注意しても聞かないのだ。

〈アルドベリク〉
ルシエラか。ノックくらいしろと何度言えば……。

〈アルドベリク〉
…………。

〈ルシエラ〉
リュディ、リザ。ふたりとも手を洗って、
それから顔も拭きなさい。

〈ルシエラ〉
ちゃんとキレイにしないと、
ふたりともおやつの〈ダークサンブラッド〉を
取り上げますよ。

ルシエラはリュディと呼んだ少年の顔に、
清潔なタオルを押し当てて、
半ば強引にゴシゴシと汚れを拭き取る。

同様にリザの顔にもタオルを押し当てる。
ひとしきり身の回りを整えてやると、
ふうっと息を漏らして、翼を垂らす。

〈ルシエラ〉
で、アルさん、〈ダークサンブラッド〉は
どこですか?

〈アルドベリク〉
その前にそれは何だ?

〈ルシエラ〉
それ?

〈アルドベリク〉
お前の前にいる小さい生き物だ。

〈ルシエラ〉
リュディとリザですよ。

〈アルドベリク〉
さも当然のように名前で説明するな。
それは人間の子ではないか?

〈ルシエラ〉
そうかもしれませんね。

〈アルドベリク〉
そうかもしれませんじゃない。
そこらへんの竜を拾ってくるのとは訳が違うぞ。

〈アルドベリク〉
返して来い。

〈ルシエラ〉
えー……。

〈アルドベリク〉
えー、じゃない。

ルシエラはふたりの子供たちの手を取り、
とぼとぼと扉の方へ向かう。

〈ルシエラ〉
じゃあ、返してきますけど、本当にいいんですか。

〈アルドベリク〉
無論だ。

アルドベリクは間髪入れずにきっぱりと答える。
それを受けてルシエラはふたりの子供たちの
耳元で何事かを囁いた。

子供たちはアルドベリクの方を見て、言った。

〈リザ&リュディ〉
アルさん、お願い

〈アルドベリク〉
妙な入れ知恵をするな。何をしてもだめだ。
返して来い。

〈ルシエラ〉
はあ……。わかりました。
返してきます。
では今から……。

〈ルシエラ〉
荒れ狂った魔界の人たちのど真ん中に、
このふたりを放り込んできますけど、
それでいいんですよね?

〈アルドベリク〉
……?

〈ルシエラ〉
フェスティバルで高揚して、どこ構わず
殴り合いを始める魔界の人たちの中に
放り込んできますけど……。

〈ルシエラ〉
それでいいんですよね。

〈アルドベリク〉
…………。

〈ルシエラ〉
行きましょうか、ふたりとも。

と言って、ルシエラはふたりの子供たちの
手を引いて、部屋の外へ向かう。

〈ルシエラ〉
アルドベリク。
あなたたちを捨てた人の名前ですよ。
覚えておきなさいね。

〈リザ&リュディ〉
アルドベリ……。

〈アルドベリク〉
待て……。返すのはやめよう。

〈ルシエラ〉
ですよねえ!
このふたり、ここにいた方がいいですよね?

〈アルドベリク〉
一時的にだ。事情がわかるまでだ。

〈ルシエラ〉
はーい。何でもいいでーす。
ふたりとも、お礼を言いなさい。
せーの、

〈リザ&リュディ〉
アルさん、大好き!

〈アルドベリク〉
……妙な入れ知恵をするな。

〈ルシエラ〉
あ。そうそう。ついでにこの人たちも
拾ってきました。
捨ててきた方がいいですか?

と扉の向こうで控えていた君とウィズが
投げやり気味に紹介された。

〈ウィズ〉
扱いがひどいにゃ……。

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