休息のひととき

戦いが終わり、ひと時の休息が訪れる。
飛沫をあげる怒濤の時は過ぎ去り、
静かな凪の時間が君たちを包む。

疲弊した体は、砂浜の砂のように、
癒しをもたらす波を吸う。

そんな優しい時間……。だったらよかった。

〈リュディ〉
うわあ、すっげえ!

〈ルシエラ〉
ほら、リュディ。
勝手に前に行かないの!
迷子になっても探してあげませんよ。

あの破壊されたフェスティバル会場は、
驚異的な速度で復旧が進んだ。

それは、戦いの疲れが癒えるよりも早く、
フェスティバルの再開にこぎつける
ほどだった。

〈ウィズ〉
フェスティバルを楽しみに
し過ぎにゃ。

ウィズが言うようにその熱意とパワーは
魔族ならではの無茶苦茶さがあった。

だが、どんな時でも子供の元気は無尽蔵である。
再開の報を聞きつけるなり、はしゃぎ始めた
子供たちに請われ、君たちは会場へ来た。

〈リザ〉
アルさん、あれはなに?

リザが指差した先には、紫色の生き物が
ふよふよと浮かんでいた。

〈アルドベリク〉
ああ。あれはマパパだ。

〈リザ〉
かわいい。ぎゅーーってしたいです!

〈アルドベリク〉
やめておけ。
湿っているらしいぞ。

〈リザ〉
えー。そうなんだ……。

子供たちにとっては、
どうやら見るものすべてが目新しく、
驚きの連続らしい。

何よりもあの故郷を襲った敵を打ち破ったことが、
彼らの瞳の輝きをよりいっそう大きなものにさせていた。

ただそれは、失った故郷や友人、あるいは
もっと親しい人々の上に薄氷を張って、
成り立っている輝きでもあった。

〈ルシエラ〉
嫌なことは全部忘れて欲しいですね。

ぽつりとルシエラが漏らす。
君はちょっと驚いた様子を見せて、
意外だと示してみせた。

〈ルシエラ〉
あら? 私は誰にでも優しいですよ。

〈ウィズ〉
よく言うにゃ。

〈アルドベリク〉
お前の言う「優しい」はどこの言葉の
「優しい」だ?
俺の知らない言葉のようだ。

〈ルシエラ〉
人の翼を折る人よりは、優しいですよ。

と言って、ルシエラはペタペタと足音をさせて、
子供たちの後について、歩いていった。

怒っているようではなく、少し笑っていた。

〈アルドベリク〉
怒らせてしまったようだ。

その言葉にも、後悔は微塵もなかった。
珍しく笑っているようだった。

あるいは自分が知らないだけで、
珍しいことではないのかもしれない。
と君は思う。

〈ウィズ〉
たまにはいいにゃ。
それよりもあの子たちはどうなるにゃ?

アルドベリクは緩んだ口角を戻した。

〈アルドベリク〉
ヴェレフキナに要請されたこともあるが、
あの子たちの世界を取り戻してやろうと
思っている。

〈ウィズ〉
とんでもなくスケールが大きいにゃ。

〈アルドベリク〉
それまで充分体を休めておけ。

〈ウィズ〉
私たちに選択肢はないみたいにゃ。
なんだか誰かに似てきたにゃ。

君はウィズの言葉に頷く。
どこかルシエラに感化されているのだろう。

ただ……。

あるいは、自分たちが知らないだけ
なのかもしれない。
と君は思った。

見物客がつくる賑やかな列に連なり、
フェスティバルを見て回る。

遅々として、進まない歩みもフェスティバルの
醍醐味だと思って諦めて、その時間を楽しむしかない。

見たこともない出しもの。

見たこともない食べ物。

会場にはまだまだ珍しいものがある。

〈リザ〉
何これ? おいしー!

練った肉を棒に塗りつけて焼いたものらしい。
ソーセージの一種だろうか。
話ではどこかの地方の食べ物らしい。

〈リザ〉
リュディ、見て見て。
輪っかだ。

〈リュディ〉
ホントだ。向こうにリザの目が見える。

棒を引き抜くと、筒状の穴が空いていて、
子供たちにとってはそれが珍しいようだ。

そして、見たことのない生き物も……。

〈クィントゥス〉
安いゼィ、安いゼィ。ドラク領は税金が安いゼィ!

〈クィントゥス〉
タックスヘイブンだゼィ!
魔界だけどな!

〈アルドベリク〉
何をしている、クィントゥス。

〈クィントゥス〉
おう、アルドベリク!
何って見ればわかるだろ。
バイトだよ、バイト!

〈アルドベリク〉
理解に苦しむから聞いただけだ。

お金に困っているんですか?
と君は率直に尋ねる。

〈クィントゥス〉
金? んなぁもんには興味はねえよ。

〈クィントゥス〉
クルスがフェスの期間中働いたら、
ダークサンブラッドを好きなだけ
やるっていうからよ。

〈ルシエラ〉
ほう。それは良いことを聞きましたね。

ルシエラがリザとリュディの背中を軽く叩くと、
予め決められていたようにふたりは
アルドベリクをまん丸の目で凝視した。

〈リザ&リュディ〉
じー……。

〈アルドベリク〉
妙な入れ知恵をするな。
やらんぞ。

〈ルシエラ〉
えー……。

〈クィントゥス〉
予備ならもう一着あるぜ。

〈アルドベリク〉
断る!

〈???〉
…………。

〈アルドベリク〉
似合うじゃないか。

そう言ってもらえるとやった甲斐があります、
と君は答えた。

〈ウィズ〉
にゃはは。ちゃんと報酬がもらえるように、
がんばるにゃ。

〈ルシエラ〉
少し残念ですが、まあいいでしょう。
子供たちのためにお願いしますね。

〈クィントゥス〉
よし! 始めっか!
腹から声出せよ!

というわけでしばらくの間、
君はドラク領の宣伝に忙しく働いた。

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