聖王と魔王

〈ミカエラ〉
ここに来ると、
いつも悲しい気持ちにさせられます。

緑色の絨毯に覆われているが、
所々に大きな窪みや唐突な隆起が目立つ。

見た目の鮮やかさに反して、
そこには戦いの傷跡しかなかった。

〈ミカエラ〉
長い魔界との戦いで散った同胞の声が
聞こえるようです。

〈マクシエル〉
こんな所で会談を申し込むとは、
奴の考えが分かりかねます。

〈ミカエラ〉
そうですか?
私には少し分かる気がします。
ここには戦いの虚しさしかありません。

〈ミカエラ〉
そんなところで、戦争の話はないでしょう。

〈マクシエル〉
その考えも、私には分かりかねます。

〈ミカエラ〉
考え方はひとそれぞれです。

数歩離れた先の地面の一部に穴が空いた。
ゆっくりと浮かび上がってくる黒い翼に、
ミカエラは安堵と緊張を同時に感じた。

〈ミカエラ〉
よく来ました……魔王イザーク。

あえてつけられた「魔王」という肩書に、
イザークは姉であるミカエラの真意を察する。

いまは姉弟ではない。
少なくともこの場では聖王と魔王なのだ。
という決然とした意思を。

〈イザーク〉
こちらこそこの場を作って頂き感謝する。
聖王ミカエラ。

〈マクシエル〉
早速だが、要件に入ってもらおう。

〈イザーク〉
無論。天界と魔界は長い間戦い続けている。

〈ミカエラ〉
ええ。

〈イザーク〉
それをやめるつもりはない。
ただ、いま我々魔界は、
少々厄介な敵と対峙している。

〈イザーク〉
一時的な休戦と……共闘を申し込みたい。

〈マクシエル〉
バカなことを。
貴様ら魔界の危機に、
我々が指をくわえて見ているだけでいろだと?

〈マクシエル〉
あまつさえ、共闘しろとは。
片腹痛い。

〈マクシエル〉
貴様らの危機は、我々の好機だ。

イザークは何とも答えなかった。

一息にまくしたてたマクシエルは
ミカエラの顔を見る。

まだそこには同意も拒否もなかった。
冷静に真意を見定めている。
そんな様子だった。

〈ミカエラ〉
敵は、何者ですか?

〈イザーク〉
詳しくは調査中だ。
実体を持たず、体から体へと移動し、
多くの世界に侵攻している。

〈イザーク〉
それゆえ、我々は死界の協力を仰ぎ、
彼らは協力を約束してくれた。

〈ミカエラ〉
……そうですか。

〈マクシエル〉
その話に何の正当性があるのだ。
死界が協力しようがしまいが、
貴様らは敵だ。

〈マクシエル〉
他の者が滅ぼしてくれるなら、
我らの手が省けるだけだ。

〈ミカエラ〉
分かりました。協力しましょう。

〈マクシエル〉
ミカエラ様!
とても正常な者の判断とは思えません。

〈ミカエラ〉
本来、どことも干渉しないはずの死界が
協力すると判断したのは、
それ相応の事態だということです。

〈ミカエラ〉
事態が収拾するまで
安易な侵攻や敵対は禁止します。

〈ミカエラ〉
共闘の件も約束いたしましょう。

〈イザーク〉
協力感謝する。

〈マクシエル〉
馬鹿な! なぜ我々が魔界の手助けを
しなければならないのです。お考え直し下さい!

〈ミカエラ〉
マクシエル、二度は言いません。
天界はこの戦いに協力します。

〈ミカエラ〉
事は魔界だけの問題ではないのです。

〈マクシエル〉
ですが!

言いかけた所で、
イザークがマクシエルを睨みつける。

〈イザーク〉
先ほどから気になっていたのだが、
なぜ王同士の会談の場に貴様風情がいるのだ?

〈イザーク〉
王が発言するよりも先に発言し、
まるで対等の立場であるかのように、
意見する。

〈イザーク〉
何の権利があって、貴様はそうするのだ?

〈イザーク〉
失せろ。

〈マクシエル〉
ぐっ……。

〈イザーク〉
即刻、この場で切り伏せられなかった
だけでもありがたく思え。

〈ミカエラ〉
魔王イザーク、配下の者の非礼を詫びます。
……マクシエル、あなたは魔界へ向かう手はずを
整えてください。

〈イザーク〉
申し入れを受けて頂き感謝する。
では、魔界で……。

〈ミカエラ〉
ええ。……魔界で。

会談の終わりと供に両者は踵を返し、
背を向け合い、それぞれの場へと帰る。

いつかの訣別と同じように、
お互いがお互いのことを理解し合い、
納得した上で、天界と魔界へと帰っていった。

 

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