上級 螺旋の胎動

君とウィズは、ルシエラに抱えられ、天界の空を飛んでいた。

〈ルシエラ〉
うわー、こうして見ると、何もなくてつまらないところですねえ。

〈ウィズ〉
自分の故郷をひどい言いようにゃ。

〈ルシエラ〉
故郷? ここはそんな良いものじゃありませんよ。

どうして? と君はルシエラに訊ねた。

〈ルシエラ〉
どうしても何も、気づいた頃には、暗くて冷たくて狭い所に閉じ込められていましたから。

〈ルシエラ〉
そんなところを、どうやって好きになるんですか?

〈ルシエラ〉
馬鹿も休み休み言ってください。
ふざけたこと言っていると、落としますよ。

〈ウィズ〉
や、やめるにゃ!

君は、閉じ込められていた理由をルシエラに訊いた。

〈ルシエラ〉
さあ? 知りません。気にしたことないです。

〈ルシエラ〉
なんでもかんでも理由を求めるのは、よくないですよ。

〈ルシエラ〉
あなたとその黒猫さんは、何か理由があるから一緒にいるんですか?

〈ルシエラ〉
だとしたら、つまらない関係ですね。特に理由もないのに、一緒にいるのがステキなんですよ。

〈ルシエラ〉
運命で繋がる関係みたいでステキじゃないですか。

そういうものなのかな? と君は思った。

そんなことを話していると、大地のいたる所で、岩が溶け出し、沸き立ち始めた。

その灼熱の沼から、魔族たちが飛び出してくる。

そして、その場にいる天使たちに見境なく襲いかかった。

〈ウィズ〉
魔族が反撃に出たにゃ……。

〈ルシエラ〉
きっとアルさんですね。これは私たちも駆けつけなければいけません。行きますよ。

そういうものかな? と君が言うと、

〈ルシエラ〉
えー、落としますよ。それでいいですかー? いいですよねー?

やめて……、という君の諦めの声を聞くと、ルシエラは天使と魔族たちが戦う戦場へと向かった。

 

君たちが、魔族と天使の争いの中を駆け抜けていると、見覚えのある少女を見つけた。

〈クリネア〉
わ! 敵ですか?

〈ルシエラ〉
敵ですよ! 悪いことしますよ! ふふふふ。

〈クリネア〉
あわわわ……。

〈ウィズ〉
何をやってるにゃ……。

ミカエラと一緒にいた天使の子だね、と君は落ち着かせるように、少女に声をかけた。

〈クリネア〉
はい。この混乱を収拾しようと思ったのですが、元々非力なもので……。

〈クリネア〉
上手くいきませんでした。

〈ルシエラ〉
まあ、この場合は腕力がモノを言いますからね。

もうちょっと遠慮しなよ、と君がルシエラを諭していると……。

〈マクシエル〉
その通りだな。

ミカエラの側にいた、もうひとりの人物。

いつの間にか、彼を含む数人の兵に君たちは取り囲まれていた。

〈クリネア〉
マ、マクシエル様。彼女は私たちと同じ天使です。争いはやめて下さい。

〈ルシエラ〉
やめないと、ぶっとばしまーす!

〈クリネア〉
え?

〈ウィズ〉
台無しにゃ……。

〈マクシエル〉
ふん。ということだ、クリネア。話し合いは終わりだ。

彼は高々と杖を掲げると、一息にルシエラに向けて振り下ろした。

〈ウィズ〉
キミ!

君は、とっさにルシエラをかばおうと、身を投げ出す。

しかし、それよりも早く反応した者がいた。

君の前には見た事がある剣が、地面に突き立てられていた。

〈アルドベリク〉
聞こえなかったか? やめなければ、ぶっとばすと言ったはずだ。

〈マクシエル〉
アルドベリク……。

ルシエラに向けられた一撃は、その直前でアルドベリクの剣によって、阻まれていた。

〈アルドベリク〉
覚悟はいいか?

 

〈マクシエル〉
クッ……。まだだ。

だが勝負はついていた。

マクシエルは、君とアルドベリクの前にひざまずき、傷ついた体を抱いていた。

すると、彼の前にクリネアが飛び出してくる。

〈クリネア〉
もう、終わりです。この人は戦えません……。

君は傍らに立つアルドベリクを見やった。

〈アルドベリク〉
抵抗できぬ者をなぶる趣味はない。

それだけ言って、彼はきびすを返した。君は震えるクリネアに目配せを送る。

〈クリネア〉
……ふぅ。

それを見ると、クリネアは安堵の息を漏らし、

〈クリネア〉
よかったです……。

緊張の糸が切れたのか、彼女はその場にへたり込んだ。その背後から何かが見えた。

ぬっ、と現れた鈍い光の軌跡が、君の脇をかすめていく。

君は咄嗟にローブを振り回し、それを叩き落とそうとした。

手応えはあった。普通なら叩き落とせただろう……。

だが、それはローブを突き破り、背後へと吸い込まれていった。

〈アルドベリク〉
……ッ! ……な、に?

〈ルシエラ〉
あうっ……。アルさん……。大丈夫……ですか?

彼女は、なぜか安心したように笑っていた。

〈アルドベリク〉
ルシエラ!

アルドベリクへと向けられた刃は阻まれた。ルシエラが身を挺したことによって。

けれど、君は妙な錯覚をした。その刃は、初めからルシエラに向けられていたのではないか。

そんな、妙な感覚である。

しかし、それどころではなかった。

〈マクシエル〉
ぐぁ……!

〈アルドベリク〉
貴様……。

マクシエルの胸ぐらを掴み、もう片方の手には魔力が込められていく。

〈クリネア〉
お、落ち着いてください。

一瞬、君とクリネアを睨んだ彼の瞳は……初めて見るものだった。

〈アルドベリク〉
俺は、そこまでお人好しではない。

〈イザーク〉
よせ! アルドベリク。

焦げた臭いが辺りに立ち込めた。マクシエルから逸れた火球が地面を焼く臭いだった。

間一髪、やってきたイザークが我が身を顧みずアルドベリクを制止したのだ。

アルドベリクの腕を取る、イザークの手もまた焼かれている。

それでも彼はその手を離さなかった。

〈エストラ〉
あれは……アルドベリクか?

それは彼を知っている者なら、誰もが口に出した言葉だろう。

〈ミカエラ〉
始まったようですね。

少し遅れて、その場にやってきたミカエラは、そう言った。

〈アルドベリク〉
訳のわからんことを言うな。……お前たちは何を知っている。

イザークはちらりと、ミカエラを見た。

〈ミカエラ〉
私たちは……。

〈イザーク〉
ルシエラがもうすぐ死に、やがてお前もそれを追うように、命を失う。

〈ミカエラ〉
そして、あなた達が、それをもう何度も、数えきれないほど、繰り返していることを。

ミカエラは、確かにそう言った。

その言葉は、それが持つ通りの意味として、使われていた。

信じられないことだが、間違いなく。

タイトルとURLをコピーしました