そして、異界へ
人の世界に降りた黒と白の羽は、荒れ果てた大地の様子を見て、意外な事の顛末を知った。
〈アルドベリク〉
どうやら人は自らが造りだしたものを制御することが出来なかったようだな。
人よりも永い時を生きる彼にとってそれは何度も見た事の成り行きであった。
人はまたもや同じ轍を踏むのか。
そう思うと他人事とは言え、虚しさが彼の心を通り抜けた。
〈ルシエラ〉
よくあることですね。
〈アルドベリク〉
随分、辛辣な言い様だな。
〈ルシエラ〉
でも本当の事ですよ?
無邪気なのか? だとすれば無邪気ほど残酷なものもないな、と彼は思った。
〈アルドベリク〉
まだ俺たちの相手がどうなったかを確かめる必要がある。行くぞ。
〈ルシエラ〉
はーい!
その世界の果て近くまで行くと、ふたりは強力な魔力の力場を発見する。
空間を歪め、ひしゃげさせ、大きな穴となったそれを見て、アルドベリクはぽつりと言った。
〈アルドベリク〉
歪みか。
〈ルシエラ〉
タウルケンドさんとその、エルなんとかさんが戦ったことで出来ちゃったんでしょうか。
〈アルドベリク〉
おそらくな。ふたつの魔力の痕跡もある。ふたつとも歪みに呑まれてしまったのだろう。
〈ルシエラ〉
では万事解決ですねっ!
彼女が跳ね上がってそういうのを見て、もはや無邪気とは言えんな、アルドベリクは思った。
〈アルドベリク〉
そういうワケにはいかん。俺の仕事は奴を葬ることだ。追いかける。
〈ルシエラ〉
でた! またアルさんのお人好し!
〈ルシエラ〉
追いかけるのはいいですけど、歪みが閉じちゃったら戻って来れないですよ。
〈アルドベリク〉
お前が歪みを維持しておけ。それくらい出来るだろう。
背中を預けるには不安はあるが……。
少女は演技がかった仕草で腕組みをして呻った。
〈ルシエラ〉
うーん……。
〈ルシエラ〉
わかりました! では私が行きましょう!
〈アルドベリク〉
……なぜだ?
〈ルシエラ〉
なぜって……。私を解放してくれたアルさんにそんな危ない真似はさせられません!
〈ルシエラ〉
それに、私の見た目の方が皆さん信用してくれますからね。これを利用しない手はありませんよ。
〈ルシエラ〉
向こうの世界の人に協力してもらい対処します。
〈アルドベリク〉
身も蓋もないことを……。だがその通りだ。
方針は決まった。アルドベリクは魔力を放出し、歪みを押し広げた。
〈アルドベリク〉
俺がこうしている間は歪みが閉じることはない。行け。
〈ルシエラ〉
はーい! では行ってまいりまーす。
ふとアルドベリクは胸にわだかまる小さな疑問を口に出した。
〈アルドベリク〉
そういえばお前、なぜ魔界に来た? 自分で魔界に来たのか。
〈アルドベリク〉
それとも魔界に来ざるを得なかったのか?
〈アルドベリク〉
例えば天界を追われたとか……。どうもそんな気がするな。
歪みの中に向かおうとする少女の横顔を見ると、少しだけ口角が上がったように思えた。
そして彼女は振り返り、言った。
〈ルシエラ〉
内緒です。
〈アルドベリク〉
……答えは帰って来てから聞くとしよう。
歪みの中に消えた白い羽は、やがてとある世界へとたどり着く。
その世界の名はクエス=アリアスといった。
