絶級 神界崩壊

絶級 神界崩壊

魔王の間を目指し、
宮殿の中を進んでいく君たち。

君はミカエラの顔を覗き見た。

イザークが自らの意思で魔界に降りた。
アモンの言葉を聞いた後のミカエラは
どこか沈んだ様子だった。

自分が聖王を継ぐことが許せなかったから
弟は魔界に降りた。
そんな考えを抱いているのだろうか。

〈ウィズ〉
歴史ではどうなっているにゃ?

ウィズは確かめるように、メティースに尋ねた。

ミカエラに遠慮しながら、メティースは答えた。

〈メティース〉
……私の知る歴史では、
イザーク様は天界の王になれなかった事に
絶望して……。

〈メティース〉
魔界へと渡ったとされています……。

〈ミカエラ〉
弟は……、イザークは本当はとても優しくて、
素直な心を持っているのです……。

ミカエラは、俯いて涙を落とす。

〈ミカエラ〉
……父を失い、弟まで失うなんて……
私には耐えられない……。

〈メティース〉
……ミカエラ様。大丈夫ですよ。
きっと魔物にそそのかされた、とか――

〈メティース〉
何か大変な事情がおありなんですよ、きっと。

〈トート〉
事情かぁ。せやな。
ワイかて魔族にそそのかされたしな。
男には男の事情があるわけや。

〈イストワーレ〉
男の人はみんな、
トートみたいなハレンチアニマルって事ですか?

〈トート〉
せやで!
俺とおんなじハレンチアニマル……。

〈トート〉
て誰がアニマルじゃ!

〈メティース〉
そこは『ハレンチ』の方を否定しなさいよ!

〈トート〉
ホンマや!
ミカエラはん、誤解せんといてな。
ワイ、ホンマはごっつ一途やねん。

〈トート〉
今も神殿のアイドル、
レメモちゃんにぞっこんでな……。

〈ウィズ〉
レメモちゃんって誰にゃ!

〈イストワーレ〉
神殿図書館の司書官さんなんですけど、
趣味が魔界めぐりなんですって。

〈トート〉
そそ!
魔族オタクの知識系メガネアイドルやねん。
会えたらえーなー。

〈イストワーレ〉
あ、でもプライベート邪魔されると、
スっごく怖いらしいですよ。

〈メティース〉
もー! みんなうるさーい。

収拾のつかなくなった雑談を
メティースが断ち切る。

〈メティース〉
ミカエラ様、すみません。
不謹慎に騒いでしまって……。

〈ミカエラ〉
フフ……アハハハハッ。

〈メティース〉
ミカエラ様?

ミカエラは声を上げて笑っている。

〈ミカエラ〉
可笑しい……。なんだか皆さんを見ていたら
元気が湧いてきました。

ミカエラは、優しく微笑むと、
頬の涙を拭った。

〈ミカエラ〉
さぁ、先を急ぎましょう。
魔王の間はもうすぐそこです。

 

君たちはついに魔王の間へと辿り着いた。

〈ミカエラ〉
ここが、魔王の間……。

〈ミカエラ〉
この中にイザークが……。

目の前の大きな扉を開き、
君たちは中へと入っていく。

しかし、その中にイザークの姿はない。

そこにいるのは、
魔王の座についているブラフモ一人である。

〈ブラフモ〉
聖王自ら訪れて頂けるとは有り難い。

〈ミカエラ〉
ブラフモ様、弟を、
イザークを返して下さい。

〈ブラフモ〉
それは私の決める事ではない。それに――。

〈ブラフモ〉
貴様の弟は、既にその翼を漆黒に染めたのだ。
自らの意思で私に忠誠を誓ってな。

〈ミカエラ〉
そんな……。弟はどこにいるのです。
せめて話をさせて下さい。弟に会わせて!

〈ブラフモ〉
くどいわ!
先王イアデルの時代であればいざ知らず――。

〈ブラフモ〉
貴様の様な弱き者の統べる天界など
恐れるに足らん。即座に滅ぼしてくれるわ!

〈ミカエラ〉
神界に属する事の意味を知らないのですか!
確かに私は未熟で、弱き王です。しかし――

〈ミカエラ〉
我々は7つの異界全ての総意によって
この神界を作り、共存の道を選んだのです。

〈ミカエラ〉
その調和を乱す暴挙を、
他の異界の神々が許すはずありません!

〈ブラフモ〉
ハッハッハッ。どこまで愚かなのだ貴様は?

〈ミカエラ〉
どういう意味ですか?

〈ブラフモ〉
神界は互いの緊張関係の上に成り立っているのだ。

〈ブラフモ〉
それは一度乱れれば、
たちどころに崩壊する
はかなき鎖のような物にすぎん。

〈ブラフモ〉
そしてその鎖は、私が貴様を葬る事によって
今、断ち切られるのだ!

 

〈ブラフモ〉
己の弱さを知り、強き者の力を借りたか……。

そう言って、ブラフモは君を見下ろす。

〈ブラフモ〉
精霊の力を借りる魔法とは面白い。
私も本気を出さねばならないようだな。

まずい。
既に魔力を使い果たした君に
これ以上ブラフモの攻撃を受ける事は出来ない。

〈ブラフモ〉
さて、フィナーレだ! 散るが良い!

ブラフモが再び強大な魔力を解き放とうとした
その時――

〈イザーク〉
散るのは、お前だ……。

〈ブラフモ〉
グアッ……。

ブラフモは苦しそうな声を上げ、
その場に崩れる。

〈ブラフモ〉
き、貴様……なぜ……。

倒れたブラフモの背中には、
イザークの剣が深々と突き刺さっている。

〈ミカエラ〉
イザーク、ありがとう……。
よかった。翼、白いままじゃない……。

〈イザーク〉
……。

〈ミカエラ〉
私と一緒に天界に帰りましょう。

〈イザーク〉
それは、出来ない……。

〈ミカエラ〉
どうして? あなたが望むなら、
聖王の座はあなたに譲るわ。

〈イザーク〉
俺はそんな事は望まない。

イザークはそう言うとブラフモの背中から
剣を引き抜いた。

ブラフモの血を浴びたイザークの翼は、
みるみるうちに黒く染まっていく。

〈ミカエラ〉
どうして……。

〈イザーク〉
俺はここに残る。魔界の王として……。

〈ミカエラ〉
イザーク……。

と、ミカエラはその場に泣き崩れる。

その時、辺りが光に包まれ、
君にとって見覚えのある天使が姿を現した。

〈イザーク〉
に、二色の羽根を持つ天使……。
まさか、本当に実在するとは……。

〈ミカエラ〉
あなたは、神界の象徴、昼と夜、黒と白を司る
大天使、プリュム……。

ミカエラはそう言って
プリュムの前にひざまづいた。

〈プリュム〉
若き聖王、ミカエラ。
辛いでしょうが、どうかイザークの事は
諦めて頂けないでしょうか。

〈ミカエラ〉
……そんな。

〈プリュム〉
イザークよ。
あなたを魔界の新しい王として歓迎致します。
よく決意してくれました。

〈イザーク〉
別に褒められる様な事をした覚えはない……。

〈プリュム〉
ミカエラ、まもなく神界は崩壊するでしょう。
それをもう止める事は出来ません――

〈イザーク〉
そんな事は分かりきっている。

〈プリュム〉
私にはこの位しか出来ません――

プリュムは自分の首飾りを外すと、
それをふたつに分けて
ミカエラとイザークに授ける。

〈プリュム〉
この首飾りはあなた方が双子であるという証、
天と魔の調和の象徴となるでしょう

プリュムはそう言い残し、消えていく。

〈ミカエラ〉
イザーク……。私、あなたが何を考えて、
ここに来たのか……分かった気がするわ。

〈イザーク〉
まぁ、双子だからな。
お互い似た様な事を考えるさ。

君はふと、以前見た先王イアデルの
講義を思い出す。

〈イアデル〉
よいか。万事においてもっとも重要なことは、
均衡、バランスである。

〈イアデル〉
この様に、双方の力が同じであれば、
秤が傾くことはない。それは天下も同じ事……。

イザークがため息交じりに
イアデルの言葉を話し出す。

〈イザーク〉
どちらか一方の力が勝れば
たちどころに均衡は崩れ、民は乱れる。

〈ミカエラ〉
お父様の仰っていた事を本当に理解していたのは、
あなたの方だったのかもしれないわね。

〈イザーク〉
どうだか……。

イザークは少しだけ照れくさそうに呟いて、
魔王の玉座に腰を下ろす。

〈イザーク〉
歴史を司る神官よ!

〈メティース〉
は、はいっ!?

突然呼びかけられたメティースが飛び上がる。

〈イザーク〉
我は今より魔王として、この魔界を治める。

〈イザーク〉
この愚かな堕天使の名を
しっかりと歴史に刻んでおけ!

〈メティース〉
しょ、承知いたしました!

それを見ていたミカエラは
君たちを振り返る。

〈ミカエラ〉
みなさん。ここまで付き合って頂き、
本当にありがとうございました。

〈ミカエラ〉
私は天界に戻り、
聖王として私のすべき事をしようと思います。

〈ミカエラ〉
魔界の王と戦う天界の聖王として……!

そう言い放つ彼女の顔にもう迷いはない。
強く清々しい聖王の顔がそこにあった。

宮殿を出て、天界へと帰る君たち。
その間ミカエラが魔界を振り返る事はなかった。

〈メティース〉
私たち、結局何しに来たんだろうね?

〈イストワーレ〉
んー。歴史の再確認?

〈トート〉
ま、歴史なんて
そうそう変えられるもんやない――

〈トート〉
起こった事は起こるべくして起こった、
ちゅーことやな。

〈メティース〉
起こった事は起こるべくして起こった、ね……。

〈トート〉
さ、ワイらも帰んで!

〈メティース〉
おっけい!

メティースはトートと顔を合わせ、
呪文を唱え始めた。

〈ウィズ〉
ちょっと、私たちの事忘れてないかにゃ?

〈メティース〉
あ! 完全に忘れてた! トート、お願い!

〈トート〉
ピィー。

鳴き声と供に生み出された虹色の泡に包まれて、
君とウィズは空高く昇っていく。

〈メティース〉
いろいろありがとー。

〈イストワーレ〉
お世話になりましたー。

そして君たちは光に包まれた。

 

気が付くと、君たちは自分の部屋にいた。

手元の歴史書は、バロンから手渡されたままの、
ひどく古いものに戻っている。

〈ウィズ〉
中身を確認してみるにゃ。

君は頷き、歴史書を開いた。

〈ウィズ〉
やっぱり何も変わってないにゃ……
結局、元通りの歴史に戻っただけにゃ。

そこには、神界崩壊後、
長い間姉弟で戦う事となった
ミカエラとイザークの

悲しい歴史が書き込まれているだけである。

そしてやはり、
イザークは愚かな堕天使として記録されている。

〈ウィズ〉
目の前の事実がそのまま真実だとは
限らない、ってことだにゃ。

どこかで聞いたそのセリフに
君はそうだね、と答えた。

感慨深げに歴史書を読み返していくウィズ。

〈ウィズ〉
にゃにゃ! これって私たちの事にゃ?

ウィズの言葉に君も歴史書をのぞき込む。

『天界の聖王ミカエラは
勇敢な黒猫の魔法使いを従えて、
魔界へと乗り込んでいきました……』

君はなんだか恥ずかしくなって、
歴史書を閉じる。

永い時を超えてきた歴史書の埃が
昼下がりの西日を浴びながら、
キラキラと宙を舞った。

〈ウィズ〉
クシュンッ。

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