〈ルシエラ〉
ふふふーん♪
ルシエラは毎日アルドベリクの玉座に花を飾った。
毎朝起きると、花を摘みにアルドベリクの国の郊外まで飛んでいった。
赤、青、黄色から紫の花まで、多様な色の花々を摘んで帰って来ては、
その花を、アルドベリクの玉座に飾った。
〈ルシエラ〉
よし。これで大丈夫ですね。
そこへアルドベリクがやってきた。
〈アルドベリク〉
……ルシエラ。そろそろ言おうと思ったのだが……。
アルドベリクは少し遠慮がちに言った。
〈アルドベリク〉
その花はなんだ?
〈ルシエラ〉
素敵ですよね。私、花って大好きなんです。ほら、私ずっと閉じ込められてたから……。
〈ルシエラ〉
変わった色で目を楽しませて、いい香りで気分を落ち着かせてくれる花ってすごいなって……。
そう言って、ルシエラは顔の前にある花のつぼみをぴんと指ではじいた。
するとつぼみは、牙をむいてルシエラの指に襲いかかる。
魔界の野草、おおかみ草である。ルシエラはその牙を素早くかわして、
〈ルシエラ〉
ふふ、かわいい。
〈アルドベリク〉
……かわいくないだろ。
〈ルシエラ〉
えー、かわいいですよ。ほら、この赤い花。これは近づいてきた動物の血を吸うんですよ。
〈ルシエラ〉
それにこっちは長い間香りを嗅ぎ続けると、手足が痺れてしまうんですよ。
どこで仕入れてきた知識なのか、そんなことを一息に言った後、ルシエラは笑った。
つられて、森の魔女と呼ばれる花が連なる小さな花房を震わせて、
ケラケラと不気味な笑い声にも似た音をたてた。
〈アルドベリク〉
……ルシエラ、天界の花を見たことはあるか?
〈ルシエラ〉
ないですよ。私ずっと閉じ込められていて、ようやく逃げ出してきたんですから。
〈アルドベリク〉
そうか。花はそれしか知らんか……。
アルドベリクは考えた。魔界の花を美しいという感覚はおかしいのではないだろうか。
少なくとも、天界の、本当に美しい花を見せた方がルシエラの為になる。
そう思った。それと――
あんな毒草ばかり、毎朝玉座に飾られても困る。というのもあった。
アルドベリクは門の前まで来て、立ち止まった。
〈アルドベリク〉
やっぱり止めよう。……いや、しかし。
ここに来て、彼の中に迷いが出てきた。この門を叩けば、問題が解決するのだが……。
〈アルドベリク〉
どうも気が乗らない。
相談相手の反応を想像すると、そう易々と門を叩くことはできなかった。
どうしたものかと、アルドベリクは門に背を向けて、腕組みした。
ファサード上部のレリーフの振りをしている小悪魔が、そんな様子を見て、ケケケと笑う。
魔王が門の前で右往左往しているのだ。流石に笑うしかない。
アルドベリクが笑い声の主を睨むと、小悪魔はまたレリーフの振りをして、すまし顔である。
アルドベリクはそのまま、門、さらにその先にある城を見つめた。イザークの城である。
〈アルドベリク〉
やっぱりやめよう。イザークの奴に何を言われるかわからん。
そう言って、引き返そうと門に背を向けた。
〈イザーク〉
貴公、人の城の前で何をしている。
〈アルドベリク〉
…………。
〈イザーク〉
ふはははは!
城中に響き渡るほどの笑い声が響き渡った。
アルドベリクは前髪をいじりながら、イザークが笑い終わるのを待った。
〈アルドベリク〉
もういいか?
〈イザーク〉
ああ、すまない。笑い過ぎたようだ。しかしこんなに笑ったのは、久しぶりだ。
〈アルドベリク〉
それはよかったな……。
〈イザーク〉
ルシエラに、天界の花を見せたいか……。ふむ、方法がないわけではないぞ。
〈イザーク〉
採りに行けばいいだけだからな。
〈アルドベリク〉
簡単に言うな。我々は一応、天界と敵対しているのだぞ。
〈イザーク〉
だから俺の所にきたのだろう? 天界生まれの俺なら何とかできると思って。
〈イザーク〉
それは間違いではない。ちょうど、以前天界の者に貸しを作った。
〈イザーク〉
その貸しを返してもらおう。俺から伝えておく。
〈アルドベリク〉
助かる。
〈イザーク〉
にしても……。ふふ……。
イザークは言葉のかわりに、肩を震わせた。
〈アルドベリク〉
…………。
アルドベリクはまた、前髪をいじりながら、イザークが笑い終わるのを待った。
