中級 変異

呻きを上げた魔族の体は崩れ、歪み、溶けた。
かと思えば、再び形を成した。

それは見たこともない禍々しい生き物で、
見ただけで嫌悪を催すような姿をしていた。

まるで目的を持って、
そんな形をしているというくらい、
よく出来たバケモノだった。

〈クィントゥス〉
なんだあ、こりゃあ……。

〈アルドベリク〉
どうやら思ったより厄介なことが
起こっているようだな。

〈クィントゥス〉
面倒な話は抜きだ。
まずはこいつらをぶっ倒そうぜ。

〈ウィズ〉
賛成にゃ。どうせ話は通じないにゃ。

君はウィズの言葉に頷いて、戦いの構えを取る。
ふと、妙に周囲が静かなことに気づいた。

嫌な予感が背筋に走り、君は辺りを見渡す。

喧嘩を見物している時ですら、平気で騒いでいた
魔族たちが皆、うろんな目をして佇んでいる。

〈クィントゥス〉
おいおい。これはまさか……。

〈アルドベリク〉
そのまさかのようだぞ。

魔族たちは恐ろしい呻きをあげて、
体を怪物へと変化させる。

どこかで激しい爆発音がした。
巨大な火柱が上がり、
怪物の無数の影が空へと飛び立った。

そして、一瞬にして、フェスティバルの会場は
炎の波に呑まれた。

〈アルドベリク〉
大丈夫か?

〈ウィズ〉
さすがにいまのは危なかったにゃ……。

間一髪だった。異変を察知した君は
すぐに魔法の障壁を張った。

おかげで辛うじて難を逃れることが出来た。

〈クィントゥス〉
おい。
あいつらどっか飛んでいくぞ。

怪物たちの群れは、空を渡る黒い帯となり、
君たちがやって来た方角──アルドベリクの
居城へと伸びていた。

あそこにはルシエラたちがいる。

〈アルドベリク〉
クソ……。何が狙いだ。

察したアルドベリクはすぐに翼を広げ、
飛び上がった。

〈ウィズ〉
キミも追いかけるにゃ!

〈クィントゥス〉
そんなら、俺も行くとすっか。
おい、魔法使い! 競争だ!

と言うなり、彼はすっ飛んで行った。
面白い人だな、と君は心の中で思いながら、
後を追った。

〈ウィズ〉
見るにゃ。

ウィズに促され、君は空を見上げる。

攻め入る怪物たちに向かい、
城の方からも魔界の兵たちが飛び出していた。

〈クィントゥス〉
ありゃ、アルドベリクの軍だな。
応戦するんだろう。

だが、ぶつかり合うふたつの群れが
もつれあうように争い始めると、
それらは妙な動きを始める。

始めはただ魔界の兵が押されているように
見えたが、そうではなかった。

〈ウィズ〉
呑みこまれているにゃ。

戦い始めると、
魔族は次々に怪物へと姿を変えた。

〈クィントゥス〉
なんだ、ありゃあ。病気みたいにうつるのか?

〈ウィズ〉
魔族にも病気はあるにゃ?

〈クィントゥス〉
あるぜ。俺は滅多にかからないけどな。

何となくわかります、と君は答える。

〈クィントゥス〉
鍛えてっからな。

〈アルドベリク〉
下らんおしゃべりはそこまでだ。

君は頭上を見上げる。

〈アルドベリク〉
何かあった時のために避難する場所は決めてある。
ルシエラはそこにいるはずだ。ついて来い。

言い残すと、
アルドベリクは怪物を蹴散らしながら、
城へと向かった。

〈ウィズ〉
私たちも城に突入するにゃ。

ルシエラは胸にふたりの子供を抱えながら、
城内の廊下を飛んでいた。

怪物の襲撃を察して、
危険の少ない方へ向っている最中だった。

〈ルシエラ〉
あれがあなたたちの言うバケモノですか?

ふたりは黙って頷いた。
良くない記憶がその頭の中で
駆け巡っていた。

〈ルシエラ〉
大丈夫ですよ。ここの人たちは
腕っぷしだけは強いんですから。
逆にやっつけちゃいますよ。

〈リザ〉
違うんです。ただ強いだけじゃない。
あれは……病です。

〈リュディ〉
大いなる疫病によって、
世界は3つの夜を過ごすうちに
滅びるだろう。

〈リュディ〉
僕たちの世界に伝わる予言です。
それはいつか必ず起こると言われています。

〈リュディ〉
そして、本当に起こったんだ……。

〈ルシエラ〉
あら。子供の癖につまらないことを言いますね。
そんなのはよくある言い伝えですよ。

〈ルシエラ〉
何の変哲もなくて、下らないくらいですよ。
それに、もし本当だったとしても……。

〈ルシエラ〉
運命とか宿命は蹴っ飛ばす為にあるんですよ。

〈リザ〉
でも私たちは、予言を信じる。
そういう風に生きてきたの。

〈リザ〉
どんな人にも運命はある。
そこからは誰も逃れられない。

〈ルシエラ〉
…………。

ルシエラは城の奥にある一室の前で翼を下ろす。

〈ルシエラ〉
さ。ここに隠れますよ。

と、扉を押し開ける。

〈ウィズ〉
あそこにゃ。

駆けつけた時、
ちょうど扉が破られたばかりだった。
怪物たちは我先にと室内へ突入していく。

〈クィントゥス〉
ちっ、遅れたか!

こちらを察知した怪物たちが、
大挙して向ってくる。

〈アルドベリク〉
邪魔だ! どけ!

猛烈な勢いで、
怪物たちを打ち倒していく君たち。

だが行く手を遮られ、
扉の向こうに次々と怪物たちが雪崩込む。

何が起きたのか、
怪物たちが部屋に入った途端、
目の前で大きな爆発が起こった。

立ちこめる粉塵の中から人影が見える。

〈エストラ〉
遅いぞ、アルドベリク。
ルシエラを守るのはお前の役目だろう。

〈イザーク〉
貴公があまりにも遅いので、
俺が代わりにやっておいた。

〈ルシエラ〉
代わりをお願いしちゃいましたー。

ふたりの間から、
にょっこりと顔を出したのはルシエラだった。
その側に子供たちもいる。

〈アルドベリク〉
どうも解せんな。
タイミングが良すぎるぞ、お前たち。

〈イザーク〉
詳しいことはここを離脱してから話そう。
まずはその算段を考えようか。

〈イザーク〉
追手についてこられても困るからな。

〈ルシエラ〉
それならクィントゥスさんを囮に使いましょう。

〈ルシエラ〉
敵の目をクィントゥスさんの方に向けて、
その間に逃げればいいんですよ。

〈ウィズ〉
いま囮って言ったにゃ……。

〈イザーク〉
ふむ。悪くない考えだ。

〈クィントゥス〉
ああ?
何の話だ?

〈ルシエラ〉
えーと、ですね。
強いクィントゥスさんにしか出来ないことが
あるんですよ。

〈イザーク〉
何も考えず敵中に飛び込め。
貴公はそれが得意だろ。

〈クィントゥス〉
んん? まあ……それなら得意だな!
任せろ!

納得するクィントゥス。
おだてるルシエラとイザーク。
それを見て呆れるアルドベリクとエストラ。

〈ウィズ〉
作戦が決まったみたいにゃ。

一同はクィントゥスを残し、離脱の準備に入る。

〈イザーク〉
心配するな。アイツは死なない。
根拠はないが、必ず戻るはずだ。

クィントゥスを見る君の不安げな視線に気づき、
イザークが言った。

〈ルシエラ〉
きっと死んでも気づかないで帰って来ますよ。

〈アルドベリク〉
やれやれ。天界生まれはご立派だ。

〈イザーク〉
状況を説明しよう。

迅速に撤退を済ませた君たちは、
アルドベリクの領地を離れ、
敵の手の及ばぬ場所へとたどり着いた。

到着早々にイザークが、皆の前に立ち、
話し始めた。

〈イザーク〉
見てわかるように、魔界は攻撃を受けている。
それも多方面から突如として攻撃された。

〈イザーク〉
だが問題は、
攻めてきているのは何者か、だ。

〈エストラ〉
天界の奴らではないのか? 新手の魔術や兵器、
そんなところだろう。

〈イザーク〉
違う。断言できるが、天界が攻めてくるなら
聖王自ら陣頭に立って、攻めてくるはずだ。

〈アルドベリク〉
聖王どころか天界の兵すらいない。
無関係か。なら何者だ。

〈イザーク〉
何者……果たして敵と呼べるのかすらわからんな。

〈イザーク〉
考えてもみろ。敵はどこから現れた?

君は突如として魔族たちが苦しみ始め、
体を変異させたあの光景を思い出す。

敵は、味方だったものの体を
作り変えて現れた。

〈ウィズ〉
にわかには信じられないことにゃ。

〈エストラ〉
あの数をあらかじめ潜入させていた……
というのは無理があるか。

〈イザーク〉
軍団丸ごとというのは不可能だろう。

〈ルシエラ〉
それに、この子たちの世界でも同じようなことが
起きているみたいです。

ルシエラの両脇に立つ少年と少女が、
怯えとも懇願ともとれる目を皆に向けていた。

〈リザ〉
私たちの世界にある予言では、
それは病だと言われていました。

〈リザ〉
世界を滅ぼす疫病だと。

〈アルドベリク〉
そういうものは本来、
我々のような魔の眷属の襲来を
例えているんだが。

アルドベリクは少し笑いながら言った。
何かの皮肉のように聞こえたのだろう。

〈イザーク〉
病か……。俺は間違いではないと思う。
ただし、肉体を壊す病ではなく、魂の病だ。

〈エストラ〉
何か考えがあるようだな。

〈イザーク〉
今はただの勘だが、
詳しく調べてみる価値はある。
死界の専門家に助力を頼もうと思う。

〈アルドベリク〉
死界というのは、
主に死者の魂を管理している場所だ。

聞きなれない言葉にきょとんとしていた君に、
アルドベリクがそう教えてくれた。

〈エストラ〉
だがどうやっていく?
あそこは他とは隔絶されている。
簡単には行けないはずだ。

〈イザーク〉
問題ない。
死界に行くのはとりわけ簡単だ。
死ねばいいんだからな。

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