〈???〉
ちょっと、君。ねぇ起きてよ。もしもーし。
光の中で見た天使の姿を探す君の目に飛びこんできたのは、
〈???〉
そのお尻の下の本、渡してくれる。
あと猫ちゃんも踏んでるわよ。
〈ウィズ〉
ふにゃー。
倒れた体の下から、
ウィズが苦しそうな声を上げながら這い出てくる。
〈ウィズ〉
師匠の上に落ちるなんてひどい弟子にゃ。
仕方ないじゃないか。
突然のことだったんだから……。
〈???〉
あら可愛い。喋れるのね、この猫さん。
気付くともう一人、少女が立っている。
〈???〉
メッちゃん。ちゃんと自己紹介しなきゃ。
私は……。
〈メティース〉
私、メティース。こっちがイストワーレ。
〈イストワーレ〉
もぉー。私が言おうと思ったのに……。
〈メティース〉
そんな事より本!
ぶっきらぼうに左手を差し出すメティースに
君は足元の本を手渡す。
先ほどまでよんでいた古い本は、
なぜか見違えるように新しくなっている。
〈メティース〉
あー、やっぱ消えちゃってるよぉ。
〈イストワーレ〉
あれ……なんか新しく書かれてなぁい?
〈メティース〉
うっわ。マジで?
『若き王女ミカエラはある日、魔族の怒りを買い、
その命を落とした……。』
〈ウィズ〉
んにゃ? 私たちが読んだ内容と違うにゃ!
確かに、先ほどまで読んでいた内容とは違う
内容に書き換わっているようだ。
何かがおかしい。
そう思った矢先、目の前に魔物の群れが現れた。
〈メティース〉
ここ天界でしょ? なんで魔物がいんのよー?
天界?
〈イストワーレ〉
まあ、正確に言えば神界の中にある天
という魔界と言いますか……。
〈メティース〉
そんなこと今いいから!
とにかくミカエラ様を探さなきゃ……。
メティースはそうイストワーレを遮ると、
〈メティース〉
君、ちょっと手伝って!
全く状況の分からぬまま、
君はカードに魔力を込めた。
先を急ぐ二人を追いかけていく君たち。
その先で美しい天使が魔物に囲まれている。
〈メティース〉
ミカエラ様よ!
〈ミカエラ〉
イザーク……。
ミカエラは道沿いの石垣に腰かけている
男の天使に助けを求めているようだ。
〈イザーク〉
……そんな奴ら、姉さん一人でやれるだろ。
イザークと呼ばれた天使はそう言うだけで
手を貸そうとしない。
〈メティース〉
ちょ、ちょっと君、何とかしてよ!
メティースが乱暴に君の背中を押す。
わかっている。
目の前で困っている人を見殺しになんてできない。
その想いと共に、君が再びカードに魔力
を込めた時、
〈イアデル〉
グゥオオオオッッ!
突然、何者かが凄まじい怒号と供に
猛スピードで突っ込んでくる。
〈ウィズ〉
気を付けるにゃ。
これまでの相手とは桁違いの覇気を感じるにゃ。
激戦の予感にカードを握る手が汗ばむ。
〈イアデル〉
グハッ――ゴホッ、ゴホッ。
我も老いたわ……。
君が最初に感じた予感に反し、
目の前の相手はあまりにもあっけなく膝をついた。
〈イアデル〉
しかし、まだ終わらせはせんぞ。
我が身に代えてもこの子らは守って――
男はミカエラとイザークを背にし、
再び君の前に立ちはだかった。
〈???〉
お待ちください、イアデル様ッ!
〈メティース〉
ク、クロノワ先輩っ!
〈イストワーレ〉
あ、どうしようメッちゃん……怒られるよぉ。
メティースはクロノワに駆け寄り、
周りに聞かれないように耳打ちをする。
〈メティース〉
歴史書は見つけたんですけど、
何か猫とかに邪魔されちゃって――
〈クロノワ〉
たく、お前ら本当ダメだなッ。
彼はそういうとイアデルと呼ばれた男に
振り返り、
〈クロノワ〉
イアデル様、
この者達は私とともに旅をしている
神官でございます。
〈メティース〉
メティースと申します。こちらは魔法使いの――
と、メティースが君の脇腹を肘でつつく。
君は慌てて旅の魔法使いだと自己紹介をする。
〈ミカエラ〉
お父様、この方たちが助けてくれたのです。
〈イアデル〉
なんと!
〈イアデル〉
我はこの天界の聖王、イアデルと申す。
これが天界の王……。
君たちはその威厳に満ちた存在感に圧倒される。
〈イアデル〉
この子らを狙って魔族どもがやってくると、
クロノワ殿に聞いたゆえ……。
〈イアデル〉
こうして出向いたのじゃが、
見事に返り討ちにあった様じゃ。ガッハッハ。
豪快に笑い飛ばすイアデル。
よかった、どうやら怒ってはいないらしい。
〈イアデル〉
しかし誤解とはいえ、子供らの恩人に対して
刃を向けた非礼、何卒お許し頂きたい。
それどころか、
深々と頭を下げる王の姿に君は驚く。
〈クロノワ〉
しかし、この様な窮地にあの高名な
『黒猫の魔法使い』殿にお会い出来るとは。
〈イアデル〉
なに? この者はそれほど有名なのか?
どうりで手強いはずじゃ。
君はクロノワの言葉に耳を疑う。
紛れ込んだ
異界の住人が君たちの事を知っているはずはない。
〈ウィズ〉
この神官、どうやら別の時代、
別の異界から来てるみたいだにゃ。
ウィズの囁きに君は黙って頷く。
〈イアデル〉
どうじゃ、旅の者。我が宮殿でしばし休まれては?
こうして君たちは天界の王の宮殿に招かれる
事になった。
その晩、
君とウィズの休む部屋にクロノワ達がやって来た。
これから話す内容は絶対に他言無用、
という前置きをして、クロノワは話を始めた。
〈クロノワ〉
先ほどは旅の神官と名乗りましたが、
我々は歴史を司る神殿に仕える神官でして……。
歴史を司る?
〈クロノワ〉
はい。
〈メティース〉
つまりね、
私達はありとあらゆる全ての出来事を
記録してるのよ……この本に。
そう言ってメティースは
君の持っていた本を見せる。
〈ウィズ〉
全ての出来事を記録? そんな事絶対無理にゃ。
〈イストワーレ〉
それがですねぇ、
こんなカンジの神獣がおりまして……。
〈イストワーレ〉
あ、名前は『トート』で、可愛いんですけど
実はすごく偉くて、何でかというと……。
〈メティース〉
とにかく!
全く要領を得ない説明にしびれを切らし、
メティースが割って入る。
〈メティース〉
トートはあらゆる生物の記憶を蓄積するのね。
そんでそれを私達神官が……。
〈クロノワ〉
この『歴史の原本』に記録していくのです。
トートの記憶とこの本は繋がっておりまして。
〈イストワーレ〉
なんですけどぉ、そのトートが逃げちゃって、
メッちゃんが飼育係だったんですけど……。
〈メティース〉
何よ! 私が全部わるいわけ?
だいたいあんたがねぇ……。
〈クロノワ〉
ダーッ! お前らちょっと黙っとけよ!
これ先輩命令な! 先輩の言う事は?
〈メティース〉
……ぜったーい。
〈イストワーレ〉
でーす……。
〈クロノワ〉
よろしい。
二人を黙らせたクロノワは説明を続ける。
どうやらその神獣がいなくなった事で、
歴史の原本の内容が変わってしまった、
という事らしい。
〈クロノワ〉
歴史の原本が書き変わるという事は、
過去が変わる事と同義なのです。
つまり、誰かが歴史を変えようとしている?
〈クロノワ〉
ええ。おそらく、トートを手に入れたのは
魔界の者だと思われます。
改ざんされた歴史の内容からみて、
それは間違いないだろう。
〈クロノワ〉
私はこれから魔界へと行き、
トートを探して来ようと思います。
〈クロノワ〉
そこで、あなたとウィズ殿にお願いが……。
〈クロノワ〉
私が魔界へと赴いている間、
この宮殿を魔界の者から守っては頂けないでしょうか。
〈クロノワ〉
本来であれば、
この二人がすべき事なのですが……。
〈メティース〉
……。
〈イストワーレ〉
……。
〈クロノワ〉
たく……。
〈ウィズ〉
分かったにゃ。
どうせ私たちもこのままじゃ帰れないしにゃ。
〈クロノワ〉
有難うございます。
ほら、お前たちもちゃんとお礼を……。
メティースとイストワーレは無言のまま、
何かを訴えかける様に見つめている。
〈クロノワ〉
……ああ、いいよ。喋ってよし。
二人はほっとした様に口を開き、
〈メティース〉
よろしく。
〈イストワーレ〉
おねがいしまーす!
どうやら先輩の命令は本当に絶対らしい。
こうして君たちは、
すこし頼りない神官二人と一緒に、
天界に滞在する事になった。
