天界に渡ったアルドベリクは、イザークの用意した案内人に導かれ、ある場所に向かっていた。
〈クリネア〉
さあ、もう少し行けば目的地に着きますよ。
〈アルドベリク〉
案内させてすまない。
〈クリネア〉
いいんですよ。イザーク様にはお世話になってますから。
〈クリネア〉
それに、私もあなたたちのことが好きです。あなたとルシエラさんのことが。
〈アルドベリク〉
俺たちのことが好き? 天使のくせに妙なことを言うな。
〈クリネア〉
以前、天界と魔界はひとつでした。……なのに今は別れて、些細ないさかいを繰り返してます。
〈クリネア〉
あなたたちは、そんな殺伐とした天界と魔界の中に吹くさわやかな風のようです。
〈アルドベリク〉
ふ、それほどいいものではない。腐れ縁だよ。
〈クリネア〉
ええ、永遠の。
〈クリネア〉
いまから行くところにも、そんな風が吹いてますよ。
〈クリネア〉
あなたたちみたいな、さわやかな風が。
穏やかな風が、花の香気を運んでくる。その風がやってくる方へとクリネアは飛んでいく。
〈アルドベリク〉
どうも……天使は苦手だ。
一面の緑の上に、赤や青や黄色の花が彩りを添え、時折吹く風が花びらを舞い踊らせる。
アルドベリクはその美しい光景に思わず息をのんだ。
〈アルドベリク〉
……ここは。
一瞬、自分が魔族であるということを忘れ、胸の奥から湧いてくる奇妙な感覚にとらわれた。
〈アルドベリク〉
(俺は……ここを知っている……のか?)
〈アルドベリク〉
(あり得ない話ではないか……)
〈クリネア〉
どうしました?
アルドベリクは否定するように頭を振る。
〈クリネア〉
アルドベリクさんは、天界の花はわかりませんよね。
〈クリネア〉
それなら私がいくらか見つくろいましょうか?
〈アルドベリク〉
いや、いいんだ。あいつが喜びそうなものならわかる。
〈クリネア〉
ほほう……!
〈アルドベリク〉
俺はその花を知っているんだ。
彼は咲き乱れる花々の中にひざまずき、彼女に贈るための花を摘んだ。
〈クリネア〉
ふふ。……ん?
クリネアとアルドベリクの上に影がかかる。
頭上を見上げると、天界の兵たちが剣を抜き、戦いの構えをとっていた。
〈クリネア〉
みなさん、この人は戦いにきたわけではありません!
〈アルドベリク〉
構わない。俺が大人しくさせる。
〈ルシエラ〉
うわぁ、ど、どうしたんですか、この花?
〈アルドベリク〉
イザークがくれた。お前が天界の花を見たことがないと言ったらな。
〈ルシエラ〉
なるほど、イザークさんが……目つきが悪いのにとてもいい人ですね。
〈ルシエラ〉
あ、それはアルさんもでしたね。
〈アルドベリク〉
……うるさい。
〈ルシエラ〉
それにしても……いい香りです。
〈アルドベリク〉
少し、懐かしい気がしないか? その香りを嗅ぐと……。
花束の中に埋めていた顔を上げ、ルシエラは答えた。
〈ルシエラ〉
全然。
〈アルドベリク〉
……そうか。
〈ルシエラ〉
この花を見るのは初めてなのに、どうして懐かしいと思うんですか?
〈ルシエラ〉
アルさん、ちょっと疲れているんじゃないですか? 少しは休んだ方がいいですよ。
〈ルシエラ〉
アルさんは真面目すぎますからね。
そう言って、ルシエラはふわふわと城の奥へ飛んでいった。
〈ルシエラ〉
でもこの花が咲いている場所は、なんとなく想像できます。
〈ルシエラ〉
たぶん天界にある山を越えると、水と空気がとてもきれいな場所があって。
〈ルシエラ〉
そこには、数えきれないほどの花が咲いているんです。風が花びらを舞わせて……。
つらつらとルシエラが並べていくその場所の情景は、花を摘んできた場所の情景にぴったりと、
当てはまっていた。
ルシエラは、それをまるで見てきたことのように言った。
〈ルシエラ〉
今度イザークさんに言って、そこに連れていってもらいたいですね。
〈ルシエラ〉
この花をいっぱい敷き詰めて、その上で眠りたいです。
〈アルドベリク〉
そうか。
ルシエラの話を聞いて、アルドベリクは満足げにそう言った。
〈ルシエラ〉
アルさん、もしかして笑ってます? ……笑うの下手ですね。
〈アルドベリク〉
下手? そんなこと初めて言われたぞ。
〈ルシエラ〉
ちょっとぎこちないですよ。
〈アルドベリク〉
……練習しておく。
〈ルシエラ〉
ぷぷ。真面目ですね。……でもまあ、その笑い方、私は嫌いじゃないですよ。
〈アルドベリク〉
そうか。
翌朝。アルドベリクの玉座に飾られていた花は……
魔界の毒草だった。
〈アルドベリク〉
……わざとだろ。
〈ルシエラ〉
えー、違いますよぉ。
