〈リザ〉
猫! にくきゅう、ぷにぷにしてる!
〈ウィズ〉
そ、それはわかったにゃ……。
〈リュディ〉
もうリザばっかり、にくきゅう触るなよ。
僕にも変わってよ。
〈ウィズ〉
私は肉球ばっかり触られるのが嫌にゃ。
〈リザ〉
ぷにぷに。ぷにぷに。
戦いと戦いの合間に訪れた休息。
緊張から解放されたからか、
いままで見たことのない子供らしさを
リザとリュディが発揮していた。
そのせいで師匠が苦労しているが、
もう少しだけ我慢してもらおうと君は思った。
安息は誰にでも必要だ。
ましてあの歳で異界を漂流してきたふたりには、
絶対に必要なものだ。
それにしても……。と君は見上げる。
こちらに帰ってきてからのアルドベリクは、
何か考え事をしているように思えた。
岩の上に腰をかけ、
じっとしている姿はそんな風に見えた。
〈アルドベリク〉
…………。
ただし、それを心配するのは、
自分の役目ではないだろう。
そう考えながら、君は子供たちの方へ向かう。
〈ルシエラ〉
元気が無いですね、アルさん。
〈アルドベリク〉
お前は俺たちの未来をどう思う?
〈ルシエラ〉
んー? どういうことですか?
〈アルドベリク〉
俺たちを縛っていた鎖は本当に解けたのか。
時々俺は疑いたくなる。
〈アルドベリク〉
まだ俺たちはあの鎖に繋がれたままで、
またあの決められた運命に従う……。
〈アルドベリク〉
そんなことを疑わないか?
〈ルシエラ〉
んーまあ、あると言えばありますし、
ないと言えばないですね。
〈ルシエラ〉
でもそれって普通のことじゃないですか?
先のことが分からなくなって不安になる。
〈ルシエラ〉
それは普通で、当たり前のことですよ。
つまらないくらい普通ですよ。
〈アルドベリク〉
嫌な予感がする。
〈ルシエラ〉
きっと良い予感がする時もありますよ。
ルシエラはアルドベリクに分かるよう、
彼の顔の前を経由して、
その細い指で子供たちを指差す。
〈ルシエラ〉
あの子たちの世界は、予言を信じて
生きているそうです。
〈ルシエラ〉
いま起こっていることは、
すでに予言で決められた。
世界の終わりなんだそうです。
〈ルシエラ〉
信じることは、
確かに強い力を生み出すかもしれないです。
〈ルシエラ〉
でも彼らが信じているのは、
世界の終わりなんですよ。
〈ルシエラ〉
そんなもの蹴っ飛ばしてあげるのが、
アルさんの役目ですよ。
〈アルドベリク〉
お前は俺を何だと思っているんだ。
〈ルシエラ〉
アルさんです。
アルドベリクはルシエラの顔を
ちらりと盗み見る。
彼女はじっと前を見たままだった。
そんな風に横顔を見るのは初めてかもしれない。
あるいは別の時間、別の自分たちでは、
あったのかもしれないが。
数秒経ち、
自分が彼女の横顔を見続けたままだと気づいた
アルドベリクは視線を戻した。
〈ルシエラ〉
あの子たち、どうしましょうか?
〈アルドベリク〉
ひとりも3人も変わらない。
〈ルシエラ〉
ですよねえ。
ルシエラが嬉しそうに
こちらを見たのがわかった。
〈ルシエラ〉
それと、この戦いが終わったら、
あの約束を果たしてくださいね。
〈アルドベリク〉
なんだ?
〈ルシエラ〉
あの花が咲いている所に
連れて行ってくれる約束ですよ。
〈アルドベリク〉
ああ。あれか。
あそこは天界なんだ。
そう簡単には行けない。
〈ルシエラ〉
それなら天界を奪ってください。
相変わらず本気か冗談か分からない調子だった。
〈アルドベリク〉
お前は俺を何だと思っているんだ。
だがまあ、考えておこう。
呼ぶ声がする。
その何気ない呼び声が戦いの始まりを予感させた。
